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減感作療法

(アレルゲン特異的免疫療法)とは、簡単に説明すると花粉症の患者さんの体内に花粉のエキスをほんの少しずつ体内に入れ、徐々に増やしていくことで体を花粉に慣らし、アレルギー反応(感作)を減らしていこうとする治療法です。
ダチョウ倶楽部の熱湯コマーシャルではありませんが、熱湯のお風呂にいきなり入ろうとしても無理ですが、ぬるま湯につかりながら少しずつ熱いお湯を入れて徐々に慣れていくと、最終的には初めに入れなかった熱湯と同じ温度でもつかる事が出来る原理に似ているかもしれません。
このように、減感作療法とはアレルギー疾患の原因となる抗原を少量から徐々に増量し、抗原に対して過敏性を低下させることを目的とした免疫療法です。正確にはアレルゲン特異的免疫療法(Allergen Specific Immunotherapy:ASIT)
と呼びます。過敏性が低下すると原因抗原が体内に入ってきてもアレルギー反応が起こりにくくなるので、症状が軽くなったり、場合によっては消失してしまうこともあります。
従って、うまくいくと対症療法で補う薬が不要になったり、大幅に減らすことが出来ます。
この治療法は、ヒトの医学においてもアレルギーの自然治癒を促す唯一の治療法として長年にわたって評価されています。
アレルゲン検査方法(皮内テストあるいは血清学的検査) に成功率の著しい違いがない報告が数件発表されたこともあり、現状での獣医学領域でも、その普及に見直しが行なわれています。



減感作療法のメカニズム
アレルギー反応とは本来、通常は敵でも何でもない物質(アレルゲン)が体の中に入ったときに免疫システムが「こいつは敵だっ!」と勘違いして過剰な反応が起こってしまうのです。

この勘違いを直すために、ほんの少しのアレルゲンを体内に入れます。かなり少ない量のアレルゲンに接触した時には、免疫システムは「敵だ!」と思わずに「????」と考え込んでしまいます。
そこでしばらくしてから、もう少しだけ多い量のアレルゲンを体内に入れます。その時も免疫系は「う~ん、なんとなく見覚えがあるけど思い出せないなあ、敵のような気もするけどまあいっか!」となり、反応が弱くなってしまうのです。


減感作療法のハッピーレート

アレルゲン特異的免疫療法が犬において効果的であるという事実は2重盲目オープン試験において証明されています。ほとんどの研究で約60%(50%-80%)の症例で“good”から“Excellent”の結果が報告されています。

効果判定までに9ヶ月ほど要しますが、治療を受けた犬の60~80%に効果が期待ができます。

しかし、特定のアレルゲン検査の代わりに単に最も一般的なアレルゲンを使用した減感作療法では症例の15%~20%が有効とかなり減少します。多くの報告では9ヶ月以上必要とされていますが、通常多くの変化は反応するまで4~6ヶ月必要となります。割合が少ないですが、治療開始後4~6週で反応する症例もあります。

減感作療法でアトピー性皮膚炎が完治する訳ではなく、ほとんどの症例で1~4週間隔でブースター注射が必要となることを説明する必要があります。


減感作療法の欠点

①治療初期に頻回の注射が必要となる。

②維持に至るために長期間が必要である。

効果的であるかどうか見極めるためにより費用がかかる。


これらが原因で多くの飼い主はアレルゲン特異的免疫療法に対して躊躇してしまいます。しかし減感作療法が功を奏すと長期の救済的負担および生涯の全身性グルココルチコイド投与のリスクを減らすことが出来ます。燃費の悪いハイオク仕様のスポーツカーよりも、10km/L以上も走行可能なコンパクトカーの方が経済的であるという算数とは別問題です。


減感作療法の効果を左右する因子
慢性の皮膚疾患が存在する場合、Thバランスが「Th1>Th2」となっています。このような状況では減感作療法は期待される効果が得られなかったり、効果発現まで時間を要したりすることが多くなります。他にも、疾患や年齢などで免疫系の異常を有する場合、健康状態により、効果は左右されます。

アレルゲン特異的免疫療法の結果は様々なファクターに影響されます。
①アレルゲン特異的IgE検査の正確性
②アレルゲン特異的免疫療法抽出液の量と質
③二次感染など痒みのコントロール


症例の選択

免疫療法はすべてのアトピー症例で行えるわけではありません。アレルゲン特異的免疫療法において可能な限りよい結果を得るための最も重要な要因は症例の選択です。アレルゲン特異的免疫療法が効果的であるという事実は知られていますが、アレルゲン特異的免疫療法を実施するための最適の方法あるいは効果を最大限に導き出す方法についてはあまり記載がありません。


5歳以上の犬や免疫療法の前に3年以上症状が続いている場合は免疫療法に対する反応が乏しいという事は多くの研究者が感じていることです。年齢には関連性がないという報告もありますが、61ヶ月以上症状が続いている場合は治療に対する反応が乏しいという報告もあります。

多くの研究では適切に品種による傾向を評価するだけの十分な頭数を使った品種が少ないため、コンセンサスの得られた論文は少ないのですが、コッカースパニエル、ラブラドールレトリバーそしてシーズーは反応しづらい犬種とされています。

また、ウエストハイランドホワイトテリアとボクサーは治療に対する反応が悪いと言う研究者も多く存在します。対照的に欧米ではオーストラリアンシェパード、ゴールデンレトリバーそしてチャイニーズシャーペイは平均以上によく反応するようです。

さらに、限られた季節あるいは一年間で4ヶ月以内の徴候を示す犬には推奨されません。交差反応(クロスリアクション)も考慮に入れるべきです。例えば、複数の草や雑草などに反応しているという結果が返ってきた場合は、地域でより一般的な原因あるいは可能性のあるアレルゲンをセレクトする必要があります。

カビ抗原は他の抗原を失活させるプロテアーゼが多く含まれるので、カビ抗原を入れる場合は酵素の働きを抑えるためにpHを調整する工夫が必要です。場合によっては、カビ抗原を含めずにアレルゲン特異的免疫療法を実施すると成功しやすいのかもしれません


副作用

 アナフィラキシー・ショックのような深刻な副作用は極めて稀で、もしアナフィラキシーが起こるとしても治療の最初の1~2ヶ月です。実際は、注射に対する蕁麻疹や血管浮腫が一般的で、皮膚専門病院でダニや昆虫の抽出液を単独で使ったアレルゲン特異的免疫療法を開始した時にみられることがあります。

 動物の許容範囲(閾値)を超えた抗原量を注射した場合、症状の悪化や急性化などの副作用が見られる事があります。アメリカのあるラボで行なった調査では、副作用の発現率は30万件中0.005%で、死亡例はありません

 ただし、アナフィラキシー・ショックは理論上起こる可能性がありますので、その際の対処について事前の準備を行い、発症時には治療を実施します。また、投与後15~30分は病院にて経過を観察することがリスク回避に役立ちます。



まとめ

各症例によってスキームや治療プロトコールはいつも同じとは限らず、さらには適切な症例の選択が必要となりますが、飼い主のコンプライアンスが得られれば、アトピー性皮膚炎の犬における長期的なグルココルチコイド療法に対する代替療法として減感作療法は有効な治療オプションの一つとなります。

 多くの抗ヒスタミン剤や他の治療オプションと比較して、アレルゲン特異的免疫療法が効果的であれば特に大型犬においてより経済的となります。




【Special thanks】

スペクトラム ラボ社 (SPECTRUM LABS, INC) テクニカルディレクター  獣医師 荒井延明
翻訳:
やさしくわかる犬の皮膚病ケア (ファームプレス社刊)


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References】


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